「誰もいないの」 警察が母にだまされた日

 父からのメールにも少し変化がみられた。たとえば,僕と母が電話をした後,その会話を母の横で聞いていた父は,「今日の夕方症候群は大変軽い。『明日午後帰ります』と言ってたでしょ。」とメールを送ってきた(今直ぐでなく,今晩でもなく,明日午後と言ってるから軽いねという意味。)。これに対し,僕が「工夫した?」と書くと,父は,「別に何もしてませんよ。古い写真を引っ張りだし,戸津の両親の話や姉さんの話でご機嫌でした。」と自慢げ。「古い写真や昔話はたぶんいいのでしょうね?」と返すと,父から「お父さんもそう思う。お休み。」と返ってきた。父に余裕が出てきたのがとても嬉しかった。
 また,ある日の午後1時半過ぎ,「母の調子が悪い(注;不穏ということ)から家を出た」とのメールを見逃していたが,気づいたときには既に解決していた。ただし,同じ日の午後8時半過ぎ,母からかなり不穏な電話が入った。僕は,次の電話くらいで,父に避難してもらうしかないなと思っていたが,10分後に父から来たメールには「解決した」と書いてあった。僕は驚いて電話をし「何で?普通悪化するやろ?」と聞くと,父は,パンダのぬいぐるみを使って何かしたら不穏が解消されたと説明をした。父は何かをつかんだのか?!

 こんな日があった。夕方,母から電話があり,聞くと「目が覚めたら誰もいなーい。誰かに来てほしい。」と泣きそうな声で訴えてきた。父は外出中なのかなと思いながら父の携帯に電話をするが出ない。父に何度電話しても出ないから,一大事!?(家で父が倒れているかも!?)と思い,事務所を出て実家に向かう準備をしていたら,父から電話がかかってきた。父は,「風呂に入ってた。(お母さんには)言ったのに・・・」と言う。ありうる・・・。

 また,こんな日があった。晩の9時半ころ,母から電話があり,聞くと「目が覚めたら誰もいないの。」と泣き声で訴えてきた。そこで,父の携帯電話へ電話をすると,父は実家の奥の和室に避難していた。今のうちに外へ避難して解決しておいた方がいいんじゃないか(夜中に避難するのは辛いし)と父に提案したが,父は,不機嫌に「行かれへんやないか,寝とるのに!」と言った。やはり母の不穏の原因の一つは,父の態度にもあるのかもと思った。特に父の無口なこと。母にはやはり話し相手が必要だと思う。そこで,母と話し,また母の様子を探るために,実家の固定電話に電話をかけたが誰も出ない。コールがつづくが父も出ない。どうやら父が電話線を抜いたらしい。母がいろんなところ(親戚や警察など)へ電話をするからだ。
 父は,仕事中の僕を煩わせないように一人で対処しようとしてくれていたのだが,かえって心配。別の日には,僕の知らないところで,自転車を転倒させて頭を打ったりしている(脳神経外科で診察受け無事を確認したが)し,やはり,このまま父に任せておくわけにはいかないと思う。

 平成20年10月8日はデイサービスに失敗し,夕方には,父が門を閉め忘れていたため母が外へ出てしまったが,父が家の近所で母を見つけて連れ戻した。その後,夜の三回目の電話の際に,母の不穏の程度をみて,僕と父は外への「避難」を決定した。この避難はこの日父の二度目の対応だったので,父を励ますために,僕はC子に支援を求めた。父が避難した後6分後には早くも母から電話があったが,「どうなってるの?誰もいないの。」と既に寂しいモードとなって僕に訴えてきた。僕は,もちろん父が避難中であることを知っているが,いつものとおり,「お父さんは?」などと言って会話を続ける。母は「お父ちゃん?」と聞き返す。「お父ちゃん」と言ってる間は娘時代モードであり時代設定が正しくないから,避難継続すべきである。そして,更に5分後にかかってきた電話では,母は「誰もいないのー。怖い。警察に電話したけど・・・」と言う。
 ん?なんか言ってたけど?まあいいか。
 10分経過後,母の様子を探るために,今度は僕から家に電話をしたら,男の声で「誰や!」と言われた。え?誰やて誰や?と思った。かけまちがえたかなと思った直後,「警察やけどお宅誰や」と聞かれて,ようやく状況がつかめた。警察が来てくれている!僕は事情を説明してお礼を述べた。父に事態を告げて帰宅してもらったが,ちょうどC子も実家に着いた。C子は母から「遅い時間にありがとう。ごめんね。」って感謝されたらしい(午後11時解決)。
 母はきっと警察官に「おかしな電話がかかってきて怖い」とか言ったのだろうと思う。でも,認知症の母にだまされる警察って・・・